矢口高雄B級聖地巡礼 その1 

私はつげ義春先生の大ファンで俗にいう聖地巡礼として彼の作品の舞台を訪れたりしています。

矢口高雄ファンの皆様の中にも巡礼者はいるのではと思い、その中でもメジャーなものでなくB級なものをご紹介していくということで『矢口高雄B級聖地巡礼』。第一弾は矢口家近くの「郵便ポスト」です。

以前、横手市増田まんが美術館館長大石さんと一緒に近所のセブンイレブンに行ったときに、この何の変哲もない郵便ポストのそばを通った時に、このポストと矢口高雄の深いつながり(?)をいくつかお話したことがあります。そんなエピソードを2つほど。

まだ、矢口家に出入りするようになって日が浅いとき…まだ、私にとって矢口が矢口高雄大先生だった時に、矢口と矢口の長女と次女と一緒にテレビを見ていたところ、矢口の奥さんが「あなた、暇なんだからこれ書きなさいよ!」と住所のメモと未記入の宅配便の伝票を矢口の目の前に放り投げました。私が、えっ、と驚いている中、矢口は、よし来たっ、任せろ!っという感じで伝票にメモの住所を書き始めました。私は、おー、巨匠矢口高雄があの『釣りキチ三平』を描いた右手で宅配便の伝票を書かされてる…と複雑な心境になったのを覚えています。その他にもお礼状の葉書なども矢口が自分で宛名を書いていました。結局のところ、矢口が家族で一番字が上手いということで宛名書き係となっていたのですが後から考えるとなんとなく微笑ましい光景でした。よって、矢口家から荷物が送られてきたことのあるご家庭はその伝票の住所は矢口が自筆で書いたものですので記念にとっておいてはいかがでしょうか? そして、葉書を書き終わると今度は奥さんから「あなた、運動不足なんだから、散歩がてらに出して来なさい!」と言われ、私が、えっ、と驚いている中、矢口は、よし来たっ、任せろ!っという感じで、ダイワのキャップをひょいとかぶり、ジャンパーを羽織ってポストに行くのでした。

その話を大石さんにすると「おー、私のところに来た矢口先生からの郵便物はこのポストから送られてきたのですね」と感慨深げだったのが可笑しかったです。

もうひとつ、よく、インスタグラムでヨーロッパの『釣りキチ三平』ファンが三平くんの格好をして釣りをしている画像や三平くんのタトゥー(!?)の画像をアップしていたりしているので「sampei」で検索してみることがあるのですが、数年前、なんとなく「矢口高雄」で検索してみると矢口が若者と一緒に満面の笑みで写っている画像がアップされていて驚きました。何事かと後日、矢口に事の次第を尋ねたところこんなことがあったそうです。

矢口がいつものように自分で住所を書いた葉書を持ってダイワのキャップをかぶっていつものポストに投函しに行ったところ一人の若者に声をかけられました。
若者「おっさん、ダイワのキャップ渋いッスね!」
矢口「…ありがとう」
若者「釣り好きなんスか?ヘラとか釣るんスか?」
矢口「ボクはマンガ家の矢口高雄だ」
若者「マジッスか!三平ッスか?」
矢口「ンだ」
若者「マジヤバッ!写メ良いッスか?」
矢口「ああ」
という成り行きで写した画像だったそうです。そのほのぼのとした光景が浮かんで面白いですね。そのようなわけで矢口は郵便局の配達員の方々ともよく挨拶を交わしていたらしく、死去の際には泣きながら電報を届けてくださったそうです。